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新潟地方裁判所 昭和35年(行)9号 判決

原告 菊池正雄 外六名

被告 羽茂川水系土地改良区

主文

被告が原告ら七名に対し昭和三十二年七月五日付の各賦課金通知書によつてなした昭和三十二年度賦課金第一期分の各賦課処分はいずれも無効であることを確認する。

訴訟費用は全部被告の負担とする。

事実

一、当事者双方の申立

原告ら訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、被告代表者は「原告らの請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

二、当事者双方の事実上の主張は別紙記載のとおりである。

三、証拠関係〈省略〉

理由

一、原告ら主張の請求原因事実については全て当事者間に争いがない。

二、そこで右の事実に基いて本件行政処分の適否について考えてみる。土地改良法の規定によれば、土地改良区の定款中にはその経費の分担に関する事項を記載し(同法第十六条第一項第五号)、又定款変更の手続として総会の特別決議並びに知事の認可を要すること(同法第三十三条第一号、第三十条第一項第一号、同条第二項)が明かである。而して、土地改良区の高度の公益性に鑑み右手続を全く履践しない定款変更は当然無効であり、従つてかかる改正定款に基く土地改良区の処分も何ら効力を生ずる余地がないものといわなければならない。被告土地改良区が昭和三十一年十二月十九日に知事の認可を得た改正定款第四十二条第二項には、前記土地改良法第十六条第一項第五号の規定に対応して、被告土地改良区組合員の経費負担に関しその割合を具体的に定めているのであるから、これを変更するには当然右の定款変更手続を履践しなければならないのに被告土地改良区はこれを怠り、単に同三十二年四月十七日に開催せられた同三十一年度通常総代会の議決を経たのみで、原告らに対し、前記改正定款第四十二条第二項とは異つた格段に加重された割合に基き同三十二年度第一期分の賦課金の負担を命じたものであるから右賦課処分はその手続において重大かつ明白な瑕疵があり当然無効な処分であるといわなければならない。 以上によれば原告らの被告土地改良区に対する本訴請求は何れもその理由があるのでこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉井省己 龍前三郎 荒木勝己)

別紙

(請求の原因)

一、被告土地改良区は新潟県佐渡郡羽茂川水系流域の土地改良を目的として昭和二十七年六月二十日設立されたもので、原告らはいずれも右土地改良区の組合員である。

二、被告はその負担すべき県営溜池工事の負担金をその組合員に対し賦課徴収するのであるが、その賦課は従来被告改良区の定款第四十二条第二項により、水量制の決定するまでは、地域内の全部の田の地積制によることとなつており、実際には水量制が決定されていないので、地積制によつて賦課徴収されていた。

三、その後、同三十一年六月二十二日、右定款の一部が改正され、水量制決定までは地域を溜池用水の需要度によつて第一号地乃至第五号地に区分し、全地域の約一割を占めるに過ぎない第一号地は開田予定地であるため全負担金の三割五分、その他の第二号地乃至第五号地は併せて六割五分を負担し、さらにその六割五分の負担部分について、第二号地は二、第三号地は四、第四号地は六、第五号地は七の割合をもつて負担すること、各号地内の負担部分は当該号地の地積割によつて分賦することとし、右改正定款は同三十一年十二月十九日新潟県知事によつて認可せられて効力を生ずるに至つた。

四、従つて同三十二年度以降の負担金については、被告は右改正定款によつて賦課すべきであり、原告菊池正雄は第三号地内に、同白井賢蔵は第三、四号地内に、他の原告らはいずれも第二号地内にそれぞれ土地を所有するので、改正定款に基き賦課金の負担分を算出すると、同年度第一期分の賦課金は、原告菊池は七百九十六円、同中原は六百九十六円、同藤井は七百四十二円、同白井は二千二百七十八円、同高見は千四百四十六円、同藤川は千八十七円、同伊藤は八百七十九円となり従来よりはるかにその負担が軽減される予定であつた。しかるに被告は、同年七月十五日付賦課金通知書をもつて、同年第一期分賦課金として、原告菊池に千二百二十四円、同中原に千七十一円、同藤井に千百四十一円、同白井に三千五百八円同高見に二千二百二十四円、同藤川に千六百七十二円、同伊藤に千三百五十二円を賦課した。

五、右の賦課処分は、改正前及び改正後のいずれの定款にも基かないもので、同年四月十七日に開催せられた同三十一年度通常総代会において、第五号議案として上提議決されたところに従つて行われたものである。しかして右議案の内容は、改正定款によつて第一号地に賦課すべき総負担金の三割五分を同地に賦課せず、総負担分について第二号地は二、第三号地は四、第四号地は六、第五号地は七の割合で地積制によつて賦課するとの方針のもとに算出せられた反当平均額及び納期を示したものであつて(第一期分反当七百円)、実質的には先の改正定款第四十二条の新たな変更を内容とするものである。してみると右議案の議決については定款変更の手続によらねばならず、従つて又その効力要件として県知事の認可を必要とするのであるが、被告はその手続をとらず、前記通常総代会の議決を経由したのみで原告らに対し前記のように賦課処分を行つたものである。

六、以上によれば、被告の右各賦課処分はその根拠を欠くのみでなく、予定せられた賦課金を遥かに上廻る加重なものであつて、重大かつ明白な瑕疵があるというべきであるからその無効なることの確認を求める。

(請求の原因に対する答弁)

第一項乃至第五項の事実は全て認める。

第六項の主張は争わない。

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